コラム 2026年9月30日
渋谷のスクランブル交差点は、谷の底にある
信号が変わると、四方から人が一斉に渡りだす。渋谷の交差点といえば、まずあの人の波だろう。足元の高さのことまで考えて渡る人は、あまりいないと思う。
国土地理院の標高データで調べると、交差点は標高15.2メートル。道玄坂を上りきったところは35.3メートル、宮益坂の上は33.8メートル。交差点は、両側の坂の上より20メートル近く低い。人の波が集まるあの場所は、谷の底だ。
では、なぜ谷なのか。
國學院大學の深澤太郎教授(考古学)によると、渋谷は渋谷川と宇田川という2本の川を中心に、たくさんの支流が台地を削ってつくった地形だ。交差点のあたりは、かつて「川が流れるだけの低湿地帯」だったという。
不思議なのは、その宇田川が見当たらないことだ。暗渠になり、深澤教授の言葉でいえば「今はもう、存在していない川」になった。名前は、交差点の北西側の町名「宇田川町」に残っている。
形も残っている。センター街の近くにあるスペイン坂が急なのは、宇田川が削った斜面だからだと深澤教授はいう。見えなくなった川が、坂の形を残していった。
行くなら、上から下りてみてほしい。道玄坂の上から、交差点まで歩いて下りる。標高差は20メートルある。
信号が変わり、人が四方から渡りだす。その人たちはみんな、谷の底に集まってきている。